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連載 「環境民俗学ノート」 9 2017年5月号 |
長沢 利明 |
竹の花と笹の鉄砲 |
web上で表現できない文字は?となっております |
(1)竹の開花と凶事のサイン
自然界の微妙な変化や異変を敏感に察知して、そこから何らかの吉凶のサインを読み取り、未来を予知しようとするこころみは、古くからおこなわれてきた。それはいわば卜占行為に近いもので、そこから得られた経験的な教訓が蓄積され、いわゆる「民俗知識」というものができあがっていく。民俗知識は、民俗調査項目でいうところの「俗信」項目にまとめられることになっているが、たとえば天気予報に関する言い伝えなどがそれだ。「猫が顔を洗えば雨」とか、「下駄を放り投げて表が出れば晴れ」とかの類は多分に迷信的といえようが、「月が笠をかぶれば雨」とか、「夕焼けがきれいなら翌日は晴れ」とかの類には、一定の科学的根拠がともなっている。
民俗調査における俗信項目は一般に、予兆・禁忌・呪い・卜占・天気予報・民間療法の6分野に分類・整理されることになっているけれども、それらの中でもここでは、「予兆」というものに注目をしてみることにしよう。特に自然界の異変によって示されるひとつのサインから、吉凶を予知する伝承知識について見てみる。これにも実にさまざまなものがあって、たとえば「カラスが鳴くと人が死ぬ」とか、「家内からネズミが消えうせると災害が起きる」とかの伝承は、よく知られているものなのだが、今回は特に植物関係の伝承について、取り上げてみることにしよう。私たちの調べた東京都狛江市の事例をいくつかあげてみるなら、たとえば次のようなものがある。
・竹の花が咲くと不吉なことが起きるという。
・竹の花が咲くと、大事件が起きるという[長沢,2015:p.147]。
・サツマイモの花が咲くと不吉。良くないことが起きるという[長沢,2016:p.191]。
・竹の花が咲くと不吉なことが起きるという。竹に花が咲くと、やがていっせいに枯れてしまうという[長沢,2017:p.229]。
・竹の白い花が咲くと変わりごとがある。里芋の花が咲くと変わりごとがある[中島,2014
:p.63]。
ここで多く聞かれるのは、竹の花が咲くと不吉という伝承なのだが、全国的に言われてきたことでもあって、誰もが知るところだろう。竹という植物は実際、めったに開花しないものであるし、そういうことが起きれば新聞のニュースにもなる。2015年7月18日に報道された新聞記事をひとつ、引用してみよう。
[100年に一度とも、瑞穂竹の花咲く] (東京都西多摩郡)瑞穂町の民家で、100年に一度とも言われる竹の花が咲き、話題になっている。竹の花が咲いたのは、同町箱根ヶ崎、美容室経営清水美恵子さん(64)方のクロチクで、竹の中でも開花周期が長いという。14日に玄関近くの竹に花が咲いているのに気付いた。花はクリーム色で、麦の穂のような形。清水さんは「40年以上住んでいて初めて見た」と驚いていた[読売新聞社(編),2015a]。
竹林の竹がいっせいに咲き、いっせいに枯れてしまうという現象などもごく稀に、実際に見られたことのようで、各地でそれを耳にする。いっせいに咲いた竹の花はやがて実を結び、それが野ネズミの餌となるため、野ネズミが爆発的に増え、農作物を食い荒らして飢饉が起きる、などともよく言われてきた。めったに起きない現象が起きた時、それを吉兆としてではなく、概して凶兆としてとらえるというのが、日本人の心性だったのだろう。夜空の流れ星は西洋では吉兆で、願いをすればかなうとされたが、日本ではそれが不吉なことの前兆とされてきたことにも通じる。
(2)サトイモ・コンニャク・サツマイモの開花
めったに花の咲かない農作物が、奇跡的に開花するということも稀にはあり、これまた吉兆というよりは不吉な知らせとして、受け取られてきた。たとえば、サトイモ・コンニャク・サツマイモなどの芋類の花というものを見たことのある人は、まずほとんどいないことだろう。それらは花が咲かないのが当たり前の野菜類なのであって、咲かないのが日本では普通なのだ。原産地の熱帯地方では普通に開花するのに、日本へ持ってくると咲かなくなるという植物は結構ある。原産地に比べれば、日本の気候はやはり寒過ぎるわけで、芋はできるが花は咲かない。花が咲かないから実を結ぶことができず、種子繁殖ではなく栄養繁殖によって子孫を増やすほかはない。サトイモ・コンニャク・サツマイモは種まきをしない農作物だ。
これらの作物の花の咲くことがあったならば、やはりそれは新聞記事となって報じられるほどのニュースになる。それは江戸時代にあっても同じで、一例をあげれば若狭国で元禄期にサトイモの花の咲いたことが記録に残されており、木崎タ窓という人が1757年(宝暦7年)に著した『拾椎雑話』という郷土誌に、「同し頃(元禄頃)願勝寺に芋の花咲く也。珍敷事とて見る人群集をなしけり」と記されている。近年の報道例を紹介してみるならば、たとえば2006年9月に千葉県香取市の市毛てる子さんが、自宅隣の畑でサトイモ(Colocasia antiquorum Schott var. esculenta Engler)の花が数本咲いているのを見つけたというニュースがあった[市毛,2006]。それが報じられたのとまったく同じ日(同年9月26日)に、東京都町田市の篠崎健司家でも京芋の花が咲いた旨の報道がなされていて[読売新聞社(編),2006]、この年には東京都と千葉県とで同時にサトイモの開花が見られたことになり、当り年だったともいえようか。京芋というのは、いわゆるタケノコイモのことで、サトイモの一品種だ。翌2007年10月19日には千葉県習志野市の坂田薫家で[読売新聞社(編),2006]、2009年9月には埼玉県上尾市の茂泉政博家で、サトイモの開花が見られた。上尾市の方の記事を、次に引用してみよう。
[びっくり!サトイモの花、黄色い筒状、次々開花、上尾・茂泉さんの家庭菜園] 国内ではあまり花をつけないとされるサトイモ。しかし、上尾市中妻4丁目、建築業茂泉政博さん(58)が近所で借りている家庭菜園では今年、次々と黄色い花をつけ、近所でも「珍しい」と話題になっている。菜園の一角で、2メートルほどに成長したサトイモの茎や葉をかき分けると、その陰に長さ約20センチの筒状の黄色い花が目につく。今年はこれまでに10個近い花が咲いたという。この野園でサトイモを育てるのは2年目という茂泉さん。「初めて見た」という園芸仲間は多いが、「私は2度目ですが、何十年ぶりなのでびっくりです」[読売新聞社(編),2009]。
何十年もサトイモを作ってきて、その開花を2度見たのみということは、生涯に2回程度の確率で、それを見ることができるということだろう。とはいえ、一生涯それを見たことがなかったというプロの農家もまた多い。なお、千葉県下では南房総の温暖な湧水池に野生化したサトイモが、開花することがある例も報告されている[長沢,2009:pp.13-14]。ごく最近の例としては、2013年8月12日頃に東京都東村山市の折原喜美男家で[読売新聞社(編),2013]、2016年には埼玉県の堺田静江さん宅で[堺田,2017:p.28]、サトイモの開花が観察されている。これらの新聞記事に載せられているそのカラー写真を見ると、サトイモの花は長く伸びた筒状で黄色〜クリーム色の苞で覆われており、ミズバショウやカラー(カイウ)の花をほっそりとさせたような形状をしていて、なるほどそれは確かに典型的なサトイモ科植物の花の形で、この長い苞のことを専門的には「仏炎苞(ぶつえんほう)」と呼ぶ。
やはりサトイモ科の植物であるコンニャクの花もまた、毒々しい小豆色をした仏炎苞で覆われているのだが、このコンニャク(Amorphophallus Konjac K.Koch)という作物も、めったに花を咲かせることがない。この私はその実物を、植物園の温室内で見たことがあるけれども、何ともグロテスクな花であるうえに、強烈な臭気を発するのには閉口した。この、まるで肥溜めのような異臭は半径数mぐらいまで漂っており、頭痛をもよおすほど強烈だ[岩槻,2014]。東京都町田市の下川正見家で2001年に[読売新聞社(編),2001]、同あきる野市の森田波蔵家で2005年に[読売新聞社(編),2005]、その花が咲いたことがあり、やはり新聞で報じられている。2015年には同青梅市の岩田三治家でその開花が観察されているが、その時の新聞記事を以下に引用してみよう。
青梅市富岡の岩田三治さん(74)の畑で、2本のコンニャクが実を付け、話題となっている。直径約6センチ、長さ約30センチにオレンジ色の実がびっしりと並び、トウモロコシのような姿を見せている。岩田さんは、定年退職後の2002年からコンニャクなどを趣味で栽培してきた。今年は3本のコンニャクに花が咲き、2本に実が付いた。岩田さんは「今回を含めて3回花が咲いたが、実が付いたのは初めて」と驚いている。群馬県農業技術研究センターによると、コンニャクは雄花と雌花の成熟期にずれがあるため、自家受粉しにくく、「花は咲くが、実まで成熟するのは珍しい」という[読売新聞社(編),2015b]。
同じ根菜類でもジャガイモ(Solanum tuberosum L.)の場合は、さかんに花をつけるものの、それが実を結ぶことはまずありえない。ところが、ごく稀に実がつくこともあるのであって、1998年6月16日に東京都立川市の須崎喜芳家でそれが確認された。これも、ニュース記事を引用してみよう。
[ジャガイモに実!、立川の家庭菜園] 立川市砂川町七、会社役員須崎喜芳さん(56)方の家庭菜園で育てているジャガイモが直径約三センチほどの実をつけているのを、菜園の手入れをしていた須崎さんが見つけた。このジャガイモは、北海道十勝産の「キタアカリ」という品種。約百株のうち十株ほどに青い実がなっているのを今月十六日に気づいたという。ジャガイモの研究で知られる長崎県総合農林試験場の愛野馬鈴薯支場によると、スーパーや八百屋さんの店先で日ごろ見かける男爵イモやメークイーンはまず実をつけることはないが、ごくまれに実がつくことがあるのがこのキタアカリ。「今年は春先かが暖かく花が咲く時期が二週間早かったので、暑くなって枯れ始める前に実をつけることが出来たようだ」と同支場では話している。ただし、ジャガイモの実には、グリコアルカロイドという毒性の物質が含まれるため、食べるとおなかを壊すそうだ[読売新聞社(編),1998]。
ジャガイモはナス科の植物であるから、そこに稔る実はおそらくナスのような、あるいはトマトのような形をしているものと思われる。諸品種の中でも、特にキタアカリに実がなることがあるという指摘も興味深い。
次にサツマイモについても触れてみよう。サツマイモ(Ipomoea Batatas Poir)もまた、もともと熱帯植物であったから、温帯の日本ではまず花が咲くことはないのだが、ごく稀に開花する現象が見られた。東京都練馬区の関口守朗家の畑で2008年9月、その花が咲いたとのニュースが、報じられている[読売新聞社(編),2008]。実はこの筆者も1995年10月26日に、筆者の住む東京都国立市内の野菜畑でそれを目撃したことがあり、くわしい観察記録をまとめておいたのだったが[長沢,1997:pp.577-583]、きちんとした写真を撮っておかなかったことが、今となってはとても悔やまれる。私の見たサツマイモの花は、鮮やかな赤紫色をした実に美しい合弁花で、南日本の海辺でよく見かけるグンバイヒルガオの花にとてもよく似た花だったが、実際にそれを見て、サツマイモがヒルガオ科の植物であることが一目でわかり、納得することができたものだ。そして、畑の中で奇跡の花を手に取りながら、それを育てた農家の方々から聞いた話を、私は次のようにまとめておいたことが今、思い起こされる。
サツマイモの開花を吉兆と考える人は一人もおらず、それはとても縁起の悪い花で、かえって逆に何かよくないことが起こる前兆であると、口を揃えて人々は語るのであった。たとえば竹に花が咲くと野ネズミが大量発生するとか、飢饉が起こるとか、いわれてきたのと同じで、サトイモにせよ、サツマイモにせよ、普段花の咲かない作物が花をつけることは不吉なしるしなのだという[長沢,1997:p.583]。
先に引用した東京都狛江市の俗信事例にもあったように、サツマイモの花はその見た目の美しさとは裏腹に、凶事の起こることを告げ知らせる不吉な花なのだという。縁起が悪いから、すぐ摘み取ってしまえという人すらいたのには、私も驚いたものだ。それが農家の人々の通常の感覚なのであって、竹および芋の花というものは概して縁起のよいものではないと考えられており、めったに見られない植物・作物の開花現象は、決してありがたいものではなかったのだ。
(3)笹の鉄砲・笹の銃弾
植物の異変の指し示す凶兆は、個人の不幸や村落の危機といった、せまい生活世界の範囲内に生起する、いまわしい出来事を予告するのみにはとどまらない。先にあげた竹の開花現象が、飢饉の到来を告げ知らせるサインとされたことがあったように、それがきわめて大規模な、そして深刻な大事件の予兆と位置づけられることも、時には見られた。それが震災・大火・冷害などの大災害や、戦争・政変・革命などの、全社会を巻き込む大騒動の前触れだというのだから、まことにただごとではない。次に述べる、いわゆる「笹の鉄砲」・「笹の弾痕」という自然現象などはまさに、戦争の勃発という国家的な一大事の前兆とされてきたのであって[長沢,1999:pp.1-3]、そのような民間伝承が存在したことについては、今までほとんど知られてこなかった。そこで、これについても少し見ておくことにしよう。
まずは笹の鉄砲なのだが、ササ類の葉の表面に鉄砲のシルエットが現れるという現象で(写真21)、長い銃身と銃尻の形が葉の中央脈に沿って現れる。
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写真21 笹の鉄砲(東京都国立市) |
鉄砲のシルエットの部分の細胞が死んで枯れているために、その部分のみ褐色に変色しているのだが、実をいえばそれは、昆虫によって葉が食われた痕跡なのであって、ウスイロカザリバ(Cosmopteryx
victor Stringer)という蛾の一種の幼虫がササ類の葉の新芽の中にもぐりこみ、食い荒らした結果、こういう文様が残されるわけなのだ。明治時代の日清・日露戦争の折、福島県須賀川市でこの笹の鉄砲が見つかり、帝国勝利の吉兆とされた旨の記録が残されていて[道山,1905:p.29]、そうした言い伝えが日本中に広がっていくことになったらしい。山梨県では出征兵士が、この鉄砲模様の現れた笹の葉を採ってきて腹巻の中に入れ、弾丸除けの守りにしたといい、栃木県ではその笹の葉を千枚集めて弾丸除けとすることが、おおいに流行したという。埼玉県川越市の氷川神社では1910年(明治43年)、本殿脇の笹の葉に鉄砲模様があらわれて、戦争か不吉な出来事の前兆といわれ、多くの人々がそこにボタモチを供えて祈ったといい、果してこの年の8月には大洪水が発生したという[高橋,2003:p.61]。笹の鉄砲がよく現れるのは、クマザサ(Sasa
Veitchii Rehder)の葉で、野外で丹念に探せば、今でもたまに見つけることができる。この私も、私の住む東京都国立市内でたった1度だけ、これを見つけたことがあり、この時にはきちんと写真を撮っておいたのだった(写真21)。
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写真22 笹の弾痕(東京都国立市)
写真23 ミョウガの弾痕(東京都国立市) |
一方、笹の弾痕というのは、笹の葉の上に弾痕状の孔が一列に並んであらわれる現象で(写真22)、こちらはアワノメイガ(Pyrausta nubilalis
Hubner)というやはり蛾の一種の幼虫が、葉を食い荒らした痕跡なのだった。笹の鉄砲に比べれば割と見つけやすく、クマザサのほか、スズラン(Convallaria
Keiskei Miquel)・トウモロコシ(Zea Mays L.)・アワ(Setaria italica Beauvois)・コーリャン(モロコシ・Sorgum
bicolor Moench)などの葉にもそれが現れることが報告されている。私は、オカメザサ(Shibataea kumasaca Makino)やミョウガ(Zingiber
officinale Roscoe・写真23)などでもそれを確認しており、次表に示す通りである。
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表11 笹の鉄砲・弾痕の確認された植物
植物名
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鉄砲
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弾痕
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出典
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クマザサ(タケ科) Sasa Veitchii Rehder
オカメザサ(タケ科) Shibataea kumasaca Makino
スズラン(スズラン科) Convallaria Keiskei Miquel
ミョウガ(ショウガ科) Zingiber officinale Roscoe
アワ(イネ科) Setaria italica Beauvois
コーリャン(イネ科) Sorgum bicolor Moench
トウモロコシ(イネ科) Zea Mays L.
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長沢,1999
筆者調査による
福田・福田,1943
筆者調査による
瀬嵐,1951
瀬嵐,1951
池木,1947
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資料)長沢,1999:pp.1-3を補足して作成.
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私の知るかぎり、笹の鉄砲が現れるのはクマザサのみで、それ以外は見たことがない。しかし、おそらくは東北・北陸地方のチシマザサ・チマキザサなどにも、多分それは見られると思う。笹の弾痕については表中にあげた6種の植物で確認されており、いずれも単子葉類の植物となっている。イネ科・タケ科・カヤツリグサ科・ユリ科などの植物であれば、結構見つけることができるのではないだろうか。とはいえ、これらはとても目立たない、きわめて地味な自然現象で、よほど注意深い観察をしなければ、とても気付くことはできない。ササ原の中に分け入って、一枚一枚ササの葉をチェックしてみるような暇人など、なかなかいないことだろう。さらに、これらの現象そのものがめったに見られないものなのだからして、そうした努力をこころみたにせよ、多くは徒労に終わる。この私も結構、頑張ってはみたが、得られた成果はここに掲げた程度のものにとどまっている。
しかしながら、笹の鉄砲そして弾痕といった自然現象は決して、何十年かに一度現れるといった珍しい出来事ではないと思われるし、サトイモやサツマイモの花を見つけるよりは、よほどたやすい。頑張って探してみれば誰でも、毎年どこかでひとつぐらいは、それを見つけることができると思う。そして、毎年どこかでひとつぐらい、それが見つかるということは、毎年どこかで戦争が勃発しているということが、そこに予告されているわけでもあるのだ。事実、世界に戦争や紛争はいまだに絶えたためしがないし、世界のどこかで毎年必ず、その惨禍が今でも繰り返されているではないか。
笹の鉄砲・弾痕は、日本の戦勝を予告する吉兆だとする先の明治期の記録に見られた論調は、いかにも軍国主義時代における当時の知識人の、その意味では近代人の発想なのであって、多くの庶民はむしろそれをネガティブにとらえ、戦争や災害が起こることの凶兆であると考えて、不安な気持を抱いたにちがいない。それは竹やサトイモやサツマイモの開花と同じことで、それらを不吉なサインとして受け止めてきたのが日本人なのだ。何でも悪い方にとらえるわけで、そのようにして自然界の異変に接してきたというのが、ひとつの伝統だったのだろう。流れ星や四つ葉のクローバーを、幸運のサインととらえるのは西洋人的そして近代人的感覚なのであって、日本人はまったくそうではなかったと私は思う。自らを取り巻く環境世界に変化が起こることを望まず、すべてがつねのごとく変わらずにあり続けることに、心の平安を求めてきたのが日本人なのであって、日本人にとっての自然とはそのような存在であり、そのような目で自然と付き合ってきたのが日本人だったのだと私は思っている。
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会.
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読売新聞社(編),2008「サツマイモの花咲いた―練馬の畑で―」『読売新聞』9月23日朝刊都民版,読売新聞社.
読売新聞社(編),2009「びっくり!サトイモの花、黄色い筒状、次々開花」『読売新聞』9月24日朝刊埼玉版,読売新聞社.
読売新聞社(編),2013「サトイモの花、咲くなんて」『読売新聞』8月17日朝刊多摩版,読売新聞社.
読売新聞社(編),2015a「100年に一度とも、瑞穂、竹の花咲く」『読売新聞』7月18日朝刊多摩版,読売新聞社.
読売新聞社(編),2015b「コンニャク二本、実がびっしりと」『読売新聞』8月2日朝刊多摩版,読売新聞社.
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